2010/06/12

新さんのiPad評価


iPadのゲームアプリは安いか高いか 


ゲームジャーナリスト 新 清士

2010/6/6

アップルの多機能携帯端末「iPad」がゲーム機として大きな可能性を持つことに疑問の余地はないだろう。スマートフォンサイズの「iPhone」の画面がA5サイズに大型化したことで、ゲームデバイスとしての幅は格段に広がった。しかし、新たなゲーム市場が順調に育つかどうかはまだわからない。問題は価格だ。
 ハードウエアの価格については、最低でも5万円近い現状では子どもにまで一気に普及するようなことはあり得ない。とはいえ、今後2~3年で3万円程度にまで下がれば、大きなハードルではなくなるだろう。
 むしろ、ゲーム機としてのiPadにとって重要なのは、ゲームアプリケーションつまりソフトウエアの価格水準である。多くのゲーム開発会社は、利益が出る市場にきちんと育つかどうかを心配している。iPhoneのような果てしない価格下落が続く市場にしかならないのであれば、本気でリソースを振り向けることは難しいからだ。
収益化は狭き門のiPhone向けゲーム
 アップルのアプリ販売ストア「AppStore」がスタートして2年が経ち、iPhoneと「iPod Touch」はゲーム機としてすっかり定着しようとしている。それはAppStoreのチャートを見れば一目瞭然だ。6月4日現在の米国での「有料App」トップチャート100には、ゲームに分類されるアプリが54タイトルも入っている。iPhoneでお金を払ってゲームを買うユーザーがそれだけいるということだ。
 しかし、販売価格は上がる気配もない。54タイトルのうち、販売価格が0.99ドル(日本では120円)のゲームが29本を占め、単純平均では約2.43ドル。ゲーム開発会社が利益を出すにはあまりに低い水準である。


 アップルは、各タイトルの販売本数などを公開しておらず正確な数字はわからないが、米レビューサイト「AppVee」によれば、大ヒットタイトルも生まれているようだ。例えば、パズルゲームの「Bejeweled 2」(Popcap Games)は販売価格2.99ドルで約300万本、iPhone向けアプリとして新たに登場したパズルゲームの代表格と呼べる「Flight Control」(米Firemint)は0.99ドルで200万本を売り上げた。とはいえ、3万タイトル以上のゲームがひしめく中で成功するのはごく一部に過ぎない。
 iPhone用アプリの市場は「ロングテールの余地が小さい」といわれる。次々に新タイトルが登場してくるため、ユーザーの関心は目新しいタイトルへと向きがちだ。ランキング上位に顔を出さないタイトルは、見いだされる機会がないまま埋もれる。運よくランキング上位に入っても、長くとどまるのは極めて難しい。そもそも販売価格を高く設定することができないため、収益を上げるチャンスは限られる。ネット流通とはいえ、最初に失敗すると取り戻すのが難しい狭き門なのである。
iPad向けゲームの平均価格は?
 iPadでは、この状況が若干でも変わるのではないかと多くのゲーム開発会社は期待している。ゲームがiPadの主要な用途の一つとなりそうな兆しは早くも出ている。米「有料App」トップチャート100のうち38はゲームであり、iPad購入者の多くがゲームを遊んでいることがわかる。
 販売価格の平均は約4.99ドルで、iPhone向けゲームに比べれば2倍以上の水準だ。0.99ドルで販売されているゲームは38タイトルのうち6本に過ぎず、4.99ドル(600円)以上が18タイトル。そのうち5タイトルは9.99ドル(1200円)以上の値段を付けている。
 もう1つ、明らかな特徴がある。iPad向けに開発したオリジナルタイトルが少ないという点だ。元々iPhoneでリリースしていたタイトルを、iPad向けに画質を向上させたり、機能を追加したりするなど、ゲームシステムはそのままにアップデートしたアプリが多い。その数は、38タイトルの約7割にあたる27タイトル。それを同じ価格か、高めの価格で販売するという形を取っている。iPhoneで浸透したブランドを生かすという意味では正しい選択ともいえるだろう。
 例えば、前述のFlight ControlはiPad版を「Flight Control HD」という名称で4.99ドルで販売して、18位に付けている。HDサイズに対応した広いマップを3つ追加したほか、協力プレーや画面を分割した対戦モードをつけるなどの機能強化で、iPhone版との違いを出している。

ユーザーは割高感を感じるか(ここが大事)
 とはいえ1人のユーザーとしては、同じゲームで価格が5倍も違うと、正直高いと感じざるを得ない。iPhoneで安価なゲームを買うことに慣れ、「安くて当然」という感覚になってしまったのだろう。日本のカスタマーレビューにも「iPhoneよりでっかくなった、iPadというだけで、なんで600円とか900円とかのアプリ多いねん!iPadアプリ高いぞ!と思っている」というコメントが寄せられている。
「Space Station: Frontier HD」の公式サイト画面
「Space Station: Frontier HD」の公式サイト画面
 iPhone版が昨年12月に2.99ドル(350円)で発売された「Space Station: Frontier」(Origin 8)の場合は、iPad版の「Space Station: Frontier HD」を4.99ドルに設定し、販売ランキングで99位に入っている。
 このゲームは、宇宙ステーションを敵の攻撃から守りながら陣地を拡張して鉱石を集めるという内容で、リアルタイムストラテジーというジャンルに属する。敵が上下左右様々な方向から同時に攻撃してくるなかで、多数の自分の駒を操る必要があるため、宇宙空間の様々な地点をいち早く表示させなければならない。iPhoneの狭い画面に比べて圧倒的に遊びやすくなり、iPadならではのゲーム性も感じる。
 ただ、ゲーム内容が本質的に変化していないにもかかわらず、600円を再度支払う必要があることには、やはり引っかかる部分がある。iPhone版のときには気にならなかったゲーム的な完成度の粗さが、広い画面で遊ぶと目立ってしまうという別の問題もある。
 iPad向けゲームアプリの今の価格水準は、既存のゲーム機向けゲームに比べれば確実に安い。しかし、安いかといわれるとiPhoneよりは確実に高い。質についても、同じような印象がする。
有料アプリに対するアップルの姿勢
 iPad向けゲームの価格水準が現在のまま維持されるかどうかは現時点では予測しにくいが、少なくともアップルが何の手も打たなければ、iPhone向けアプリと同じような価格下落のプレッシャーに悩まされることになるだろう。
 iPadのAppStoreの作りを見る限り、今のところアップルは有料アプリの購入をユーザーに促しつつ、販売価格を高めに維持しようと考えているように感じられる。それは、全体に無料アプリを見つけにくいユーザーインターフェイスになっていることからもわかる。
 iPadでそれなりの質のゲームを買うなら、「4.99ドルや9.99ドル以上が相場」というコンセンサスがユーザーとの間に成立するようになれば、多くのゲーム会社にとって戦略が組みやすくなるのは確かだ。その価格帯で収支計画を立てられるようになれば、iPhoneからの移植版が中心という段階を越え、本格的なゲーム機としての可能性が開けることになるだろう。

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